停車場日記

× 事のてんまつ

2014-10-02 05:57

このブログはだれかに発信しようと思って書いているのではない。
ただつれづれに世の中のこと、自分のことなど、
思いつくまま気まぐれに書き綴っているだけだ。
いわばプライベートなメモみたいなものだ。
今回もまたきわめて極私的なできごとなので、興味のない人には退屈だろう。
読むにあたいしないことかもしれない。
そのへんお断りして以下をつづる。
                    *
事の次第はこうだ。
                    *
例年、わたしは7月あたりに人間ドックに入る。
ふだんだとそのころから秋の公演に向けて稽古入りするので、
自分が健康な状態であるかどうか確かめるためだ。
今年もそうした。
結果、やや肥満気味という程度のことでまずまず健康体だということだった。
                    *
「もう少し野菜をとって……」などというドクターの言葉を、
「はい。はい」と殊勝に聞きながらふと壁に目をやると、
PET検診のポスター貼られていた。
「センセイ、これってアレですよね。全身のガン細胞の有無がわかるという……」
「そうそう、こっちに移ってきてから導入したんです」
書き漏らしたが今年から人間ドックは新設の中央病院でやることになったのだ。
「受けてみようかな」
「でも健康体だし、けっこう検診料高いしね。必要ないと思うけど」
「いいですよ、受けますよ。今年はヒマだし」
と、わたしはその場でPET検診の予約を入れた。
                     *
受診したのが8月の中ごろ、結果を聞きに行ったのは9月に入ったころだ。
診察室に入るとなじみのドクターが暗い顔でPETの画像を見ていた。
あちゃー、と思ったがいちおう訊いてみた。
「どうなんですか?」
「うーん。前立腺のあたりにね。ほら、ここ」
と、指さした先。
腰の断層写真の一部分が不吉な蛍光色を発していた。
「これってガンですか?」
「その可能性が高いですね」
「はあ」と言うしかない。
とりあえず、もう少し見極めるために、
次回は前立腺だけを重点的に造影剤MRIで検査をしようということになった。
                   *
ガンかもしれないと聞かされても、自分でも驚くほど動揺はなかった。
ふだんから(死ぬならたぶんガンだろうな)と思っていた。
人並みはずれたヘビースモーカーだし、酒もやる。
生活のリズムもむちゃくちゃだ。
遅かれ早かれその日がくるのは覚悟していた。
ただ(少し早いんじゃねえ)というくらいが感想と言えば感想だった。
                   *
問題は余命がどれくらいあるかってことだな。
5年くらいだと芝居にも決着がつけられるかもしれない。
でも1年とか言われたらどうしよう。
最後の1本だ。スペシャルバージョンということで派手にやろうか。
最初が「銀河鉄道」という芝居だったから同じ「銀河鉄道」というタイトルはどうだろう。
いやいや、そういう大げさなのもなんかテレるよな。
ふだん通りにやってプツッと糸が切れるようにカットアウトするのも粋かもね。
                   *
MRI検査を受け、その結果が出たのが9月の下旬。
「やっぱりハッキリしませんねえ」とドクター。
「困りましたねえ」とわたしは少しドクターに同情した。
「思い切って生検やりましようか」
「なんです、それ?」
「直接細胞を採ってガンかどうかを調べるんです」
「それだとハッキリするんですか?」
「ええ。もうそれしかありませんね」
「じゃ、やりましょやりましょ」
「ただ3日の入院が必要ですし、術後ちょっと辛いですよ」
「いいですよ。白黒つかないとオレも気分悪いっすから」
                    *
施術の前の日(入院している)、
ドクターが手順の確認のために病室を訪ねてきた。
「えーと、肛門からですね、針を12本ほど入れましてですね……」
「ええっ、いっぺんにですか?」
「いやいや、もちろん1本づつです」
「でも肛門からなんでしょ?」
「そうですよ」
「M字開脚で?」
「まあ、そういうことですね」
「前もうしろも丸見えじゃないですか」
「やめますか?」
「もちろん、やります。タダで見せます」
                    *
施術は局所麻酔でやる。
脊髄に麻酔を打たれしばらくすると下半身の感覚がまったくなくなる。
麻酔の前に椅子に坐っていたのだが、
そのときの膝を折っていた感覚的記憶だけが残っていて、
たぶん足を上げたり下げたりしているのだろうが、
そういう現在形の感覚がない。
このまま両足を切断されたら膝を曲げた感覚的記憶はずっと残るのだろうか。
それとも少しづつ薄れていくのか。
(これってなにかを書くときの役に立つかもしれない。メモメモ)
と、そんなことを思っているうちに施術は終わった。
痛くも痒くもない。
                     *
ドクターの言ったとおり麻酔が醒めてからが辛かった。
尿道にカテーテル(というらしい)なる管を入れられ、
そこから血尿がポリ袋に入る仕掛けになっている。
尿意を催してイキむと「イタタタタ」となる。
そのうえ、絶対安静でDVDも本も取り上げられた。
しょうがねえなあもう。
                     *
だもんで、点滴の袋と尿のポリ袋を30分ほどかかって、
ようやく移動用点滴柱(というのかどうかしらないが)に移し、
そろそろそろと上着のところにいって、タバコとライターを取り出し、
またそろそろそろとトイレにいって一服つけた。
そのときのタバコのうまいのなんのって。まさしく天国の味。
んで、吸い殻をトイレに流してベッドに帰ったと思いねえ。
                     *
苦労してベッドに横たわったかどうかという刹那。
病室のドアがスッと開いて看護婦が入ってきた。
「タバコ、吸いましたね」
おいおいおい、麻薬犬かよ、おまえは。
個室の、しかもトイレのなかだぜ、どうやって嗅ぎつけたんだ?
「いいえ、吸ってませんよ」
「臭いがします」
「オレの加齢臭じゃね?」
「ほんとのことを言ってください。吸いましたね」
「いいえっ。吸ってません」
看護婦はプリプリしながら出て行って、今度は上司らしき年配の看護婦を伴ってきた。
上司「お願いです。ほんとのことを言ってください。吸ったんですかどうですか」
お願いされちゃしようがない。白状しちゃお。
「わかりました。一服しましたよ」
上司「そうですか。では今夜はドアを開放したまま寝てもらいます」
「へえ、それが罰ですか。看守長どの」
と、精一杯の皮肉を込めて強がってみせた。
上司「いいえ、次に入る患者さんのためですから」
これは応えた。自分で自分が恥ずかしくなった。
そうなんだよなあ、いかに個室とはいえ、ここはわたし個人の所有物ではない。
明日にはまた別の患者が入るのだ。
勘違いもはなはだしいぞ、オレ。
                    *
わたしにはルールとはチェーン&ボールだという抜きがたい思い込みがある。
ぜったいにルールに縛られまいという人生観のようなものがある。
だがその一方で、人に迷惑をかけてはならないという常識人的思考もはたらく。
このへんの立ち位置はけっこう微妙で、
今回のような大ポカもやらかす。
翌る日、前夜の看護婦さんにくれぐれも謝っておいてくれと告げて退院した。
                    *
で今日10月1日、いよいよその結果が出る。
呼び出しのアナウンスがある。
ドナドナドナ、ドーナ……。
診察室に入る。
「センセイ、ちょっと待ってください。こころの準備をしますから」
「あ、そんなものはいりません。ガンじゃありませんでした」
「はあ?」
「生検のあと、熱出ませんでした?」
「はい。40度近い熱が一晩」
「やっぱりね。生検で刺激したから」
「ちょちょ、どういうことなんです?」
「たぶん前立腺の炎症だったんでしょうね。それにPETが反応したんでしょう」
「ってことは、まったくのシロ?」
「ええ」
「確認させてください。いまのオレには全身どこにもガンがないと思っていいんですか?」
「そういうことですね」
「やったあー!(ガッツポーズ) ふわー(ふぬけ状態)」
「よくあるんです。PETっていっても万能じゃありませんから」
「ありがとうございました。いやー、うれしい。センセイ、こんど飲みにいきましょう。二蝶おごりますから」
「(笑)本気にしますよ」
「本気ですよ」
「じゃその気になったら電話します」
「ほんっとに、ありがとうございました」
                         *
外に出ると空は晴れ晴れとし、涼しい風が吹き渡っていた。
タバコを思いっきり吸い込んだ。
思えばこの2ヶ月、ノーテンキに過ごしていたようで、
そのじつ、生と死のことをこの身にもっとも近く考えていた時間だったようだ。
覚悟もあったし、決意もあった。
それが一気に遠のいたという解放感がある。
                         *
無罪放免、無罪放免。
とこころのなかでつぶやきつつ、クルマに乗った。
今夜は最高級のレストランでいちばん高い料理を食べよう。
生きてるってことはけっこういいもんだ。
                         *
センセイからも言われた。
「この際、酒とタバコをやめたらどうです?」
「いえ、それはごめんこうむります(キッパリ)」
不健康こそわがミューズだ。
心身ともに健康なやつが書いた作品でわたしを感動させたものは(たぶん)ない。
わたしはこのままのわたしで一歩前に出る。
それがわたしの「明日」だ。(ウエ


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コメント

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2014-10-04 12:57

たまにのぞいたら(!)公演のない秋を満喫してたのに、冒頭でぞっとしました。
無事生還、おめでとうございます。


もうタバコも酒もやめんでええけん、そろそろ芝居やってくださーい。


あ、でも暴食はやめたほうがいいかも。
  1. URL
  2. たへぱんだ #-
  3. Edit

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2014-10-10 16:45

ほんま、ほんま!
えらい久しぶりにまとめて読んでたら!?


身体に悪いわ…(>_<)


  1. URL
  2. たま #-
  3. Edit

× おい!

2014-10-21 17:38

私も久々に読んだらびっくり!
ホンマタバコだけでもやめてくださいな!
  1. URL
  2. ぽむ #-
  3. Edit

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